慶應義塾大学 シラバス・時間割

研究会A

担当者名井庭 崇
単位4
年度・学期2025 秋
曜日時限木4,5
キャンパス湘南藤沢
授業実施形態対面授業(主として対面授業)
登録番号38116
設置学部・研究科総合政策・環境情報学部
学年1, 2, 3, 4
分野研究プロジェクト科目研究会
評語タイプログインすると表示されます(要慶應ID)。
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開講場所SFC
履修条件ログインすると表示されます(要慶應ID)。
履修者制限の有無
選抜エントリーが必要な科目は、SOL-Aでエントリーしてください。
※CNSアカウントを所持している、総合政策学部、環境情報学部、政策・メディア研究科、看護医療学部、及び、健康マネジメント研究科以外の学生はシステムでエントリーできません。
K-Supportニュースに掲載の案内を確認してください。
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履修者制限詳細ログインすると表示されます(要慶應ID)。
受け入れ予定人数ログインすると表示されます(要慶應ID)。
課題提出タイプログインすると表示されます(要慶應ID)。
学生が利用する予定機材/ソフト等制作や研究のために必要となる作成・編集ソフトウェアや生成AI(サブスクリプション)、そして各自の作業用の機材(液タブや楽器等)は、各自で購入してもらいます(なお、漫画制作は、CLIP STUDIO PAINT EXで統一しています)。
連絡先メールアドレスログインすると表示されます(要慶應ID)。
科目概要研究会の履修を通じて「卒業プロジェクト」に向けて、教員と学生が共に考えながら、多様な課題に取り組んでいく。SFC では「問題が与えられ、正解を教わる」のではなく「何が問題かを考え、解決方法を創出する」ことができる、「未来の先導者」を育成、輩出することを目指している。それを実践するための「研究会」は単なるゼミのような勉強グループではなく、企業との共同研究や官公庁からの委託研究など、先端的な研究活動が数多く行われている。それらに参加して実社会の問題に取り組むことによって高度な専門性を身につけ、自らの「未来創造の成果」として、また、自らが未来へ前進するときの「自分自身のプロポーザル」として、卒業プロジェクトを作成する。
K-Number FPE-CO-05003-211-88
科目設置学部・研究科FPE総合政策・環境情報学部
学科・専攻CO
科目主番号レベル0学部共通
大分類5研究プロジェクト科目
小分類00研究会
科目種別3選択科目
科目補足授業区分2講義
授業実施形態1対面授業(主として対面授業)
授業言語1日本語
学問分野88総合・複合領域(学際)

講義概要

物語には世界を変える力があります。日常とは違う別の「世界」を立ち上げ、その世界に人々を招き、普段とは異なる経験が生成されることを通じて、その人たちの世界観や考え方、さらには生き方が少し更新されることがあります。井庭研究室では、そのような物語の力を、よりよい未来へと向かうことに活かす新しいジャンルの物語の創作・研究に取り組みます。

本研究会では、実践を促す新しいタイプの物語である「実践発想ストーリーズ」(Practice-Inspiring Stories)という新しいジャンルの構築を目指し、実際に作品をつくりながら、それがどういうものなのかを探究し、それを「つくり方をつくる」ことにも取り組みます。メンバーの得意や制作の機会に合わせて、漫画、アニメ、絵本、小説、歌、映画、オーディオドラマ、演劇などの表現で、複数人のチームで物語作品を制作します。このような創造と研究に、ともに取り組むメンバーを募集します。

図入りで、見やすいシラバスが、https://note.com/iba/n/n97997206f76f にあります。最新情報が更新されている可能性もあるので、そちらを見るようにしてください。

授業科目の内容・目的・方法・到達目標

図入りで、見やすいシラバスが、https://note.com/iba/n/n97997206f76f にあります。最新情報が更新されている可能性もあるので、そちらを見るようにしてください。

本研究会では、実践を促す新しいタイプの物語である「実践発想ストーリーズ」(Practice-Inspiring Stories)という新しいジャンルの構築を目指し、実際に作品をつくりながら、「それがどういうものなのか」を探究し、その「つくり方をつくる」ことにも取り組みます。


■実践発想ストーリーズとは
実践発想ストーリーズとは、その物語の読者・視聴者が、主人公の行動・体験を擬似体験することで、現実世界においても同様の実践をしたくなることを促す物語のことです。

例えば、物語のなかで主人公が「植物を育ててその喜びを感じる」という物語をつくり、読者がその後、自分でも植物を育ててみたくなり、実際に実践するということを誘発する——そのような物語が、実践発想ストーリーズです。

実践発想ストーリーズでは、物語の登場人物の実践が、これからの自分の実践の発想の素になります。また、登場人物の実践・経験を読者・視聴者が疑似体験すると、実際には初めて行う実践であっても、一度経験したかのような感覚で取り組むことができるようになり、新しい実践への恐怖・不安も軽減できるでしょう。また、実践発想ストーリーズでは、実践のシーンを描くだけでなく、実践に必要な考え方ややり方、必要な道具立てや方法についての知識も、知ることができるようにつくるとよさそうです。

これまでに井庭研でつくってきた「実践発想ストーリーズ」については、漫画については、国際学会論文 "Practice-Inspiring Stories" と “Pattern Manga” で紹介しています。また、歌については、国際学会論文 "Pattern Song: Auditory Expression for Pattern Languages” で紹介しています。なお、この楽曲は各種音楽プラットフォームを通じて聴くことができるので、ぜひ聴いてみてください(Spotify / Amazon Music / Apple Music )。

私たちは、実践発想ストーリーズの物語を、漫画、アニメ、絵本、小説、歌、映画、オーディオドラマ、演劇などの作品としてつくっていこうと考えています。それぞれに異なる表現であり、考え方もつくりかたも異なるという面はありますが、物語の表現のかたちとして横断的に取り組むことで、互いの表現領域から学び合ったり発想を得たりということができればと思っています。そして、究極的には、どの表現方法の理解と経験を持ち、どの方法も選択肢として選べる表現者になる(伝えたい内容や届けたい人に合わせて表現方法を選べるようになる)とかっこいいな、と思っています。そして、実際にそういうこともできる時代(創造社会)に入ってきていると思います。本研究会にそういうことにワクワクする人たちが集まり、創造に真剣に取り組み、語り合い、面白さや喜びをともにできる仲間が増えるといいなと思います。


■現在動いている制作プロジェクト
現在、5つの制作プロジェクトが動いており、そのうち2つのプロジェクトで新規メンバーを募集しています。

①地域の魅力発信の新手法開発の共同研究プロジェクト[新規メンバー募集]
井庭研では現在、山梨県の富士吉田市役所と、地域の魅力発信の新手法開発の共同研究に取り組んでいます。昨年の2024年度には、富士吉田市の住民のみなさん100人以上から、富士吉田の楽しみ方を掘り起こすワークショップを実施し、スタイル・ランゲージというかたちでまとめました( 市の広報誌記事 / 学会発表論文 )。
今年度は、そのたのしみ方のスタイルを、主に漫画で表現することに取り組んでいます。つまり、富士吉田市の楽しみ方の実践を促す「実践発想ストーリーズ」を作成するのです。そこで、漫画を描いた経験のある人や、絵を描くのが好きな人で漫画を描くことに挑戦してみたい人を募集しています。また、漫画以外にも、歌や短編小説やオーディオドラマなど別の表現も模索できればと思っているので、そういう表現でつくることができる人も歓迎します。
なお、昨年度の研究成果(富士吉田の楽しみ方)については、それに詳しい昨年度のメンバーや井庭と、チームを組んでつくるので、その点についての知識等は必要ありません。また、どのような内容・表現の物語にするとよいのかを考え、つくり方をつくることにも取り組みます。富士吉田市へのフィールドワークも行い、物語で描くことを実際に体験し、その経験・実感をもとに作成していきます。一緒に模索しながら魅力的な物語(実践発想ストーリーズ)をつくっていきましょう!
このプロジェクトは、水曜日の3〜5限に活動する予定です(その時間は他の授業等を入れないでもらう必要があります)。また、夏休み中に一度(おそらく9月下旬)に、富士吉田市へのフィールドワークを予定しています。

②進路選択の考え方を共有する短編アニメ制作プロジェクト[新規メンバー募集]
進路選択というのは、渦中にいる人には、どうやったらいいのか、よくわからなく、悩んでしまいがちです。井庭は、進路選択のためのパターン・ランゲージ「ミラパタ(未来の自分をつくる場所:進路を考えるためのパターン・ランゲージ)」を作成しました( リリース記事 / ミラパタ・カード )。というものです。井庭研では、現在、この進路選択のパターン・ランゲージのパターンを物語に組み込んだ「実践発想ストーリー」の短編アニメ(3分の作品)の制作に取り組んでいます。主人公の高校生が、ミラパタのパターンを参考に自分の進路について考えを深めていくという物語です。現在、キャラクター作成と、ストーリー、ビデオコンテができています。この夏からアニメーションの作画と動画制作、アフレコ等です。ぜひ一緒に作画をしてくれる人や音楽をつくることができる人を募集します。このプロジェクトは夏休み中も活動する予定です。

これ以外の現行プロジェクトでは、新規メンバーは募集していませんが、どのようなプロジェクトが動いているのかの参考に、紹介します。

③異世界で探究学習を行う漫画の制作プロジェクト
高校で「総合的な探究の時間」が必修科目となるにあたり、井庭は探究のパターン・ランゲージ「探究パターン」を作成し、現在、高校の授業の教材として活用されています( リリース記事 / 探究パターン・カード )。このプロジェクトでは、異世界に召喚・転移した高校生が獲得した探究スキルを発揮しながら、謎を解いていくという漫画を制作しています。異世界ものの物語を通じて高校生が探究についての実践的な理解を深めることを目指しています。

④パターン・ランゲージの作成を体験できる漫画の制作プロジェクト
井庭研では、よい実践の本質を言語化するパターン・ランゲージをどのようにつくるのかの方法を開発してきました。その方法については論文や講演で解説してきているものの、井庭研のプロジェクトに参加して実践的に学ぶと、実践的に理解が深まるというのが実際のところです。このプロジェクトでは、主人公が研究室に所属し、パターン・ランゲージの作成を体験的に学んでいくという漫画を制作しており、その擬似体験によって、「弟子入り」したかのように学ぶことができる「弟子入り体験漫画」の実現に挑戦しています。

⑤「ジェネレーター」と呼ぶ新しいタイプの人々のことがわかる漫画の制作プロジェクト
創造的な視点と発想で、周囲を新たな可能性の世界へと誘う「ジェネレーター」という存在について、井庭崇は、市川力さんと提唱してきました( 書籍『ジェネレーター』 )。既存の概念・説明に収まりきらないそのような人のあり方や振る舞いを漫画で感じられる漫画を、このプロジェクトでは制作中です。主人公がジェネレーターに出会うところから、自らジェネレーターになっていく過程を読者も追体験します。

これらの現行プロジェクトに加えて、2025年度秋学期は、集まったメンバーの得意や経験を踏まえて、新しいプロジェクトを立ち上げる可能性もあります。

■井庭研で大切にしていること
「実践を促す物語」という新しいジャンルの物語をつくるということは、「物語のなかでの擬似体験を通じて、実際の実践を促す」という目的を果たすための工夫やつくり込みが不可欠です。現在のところ、それがどういうことなのかわかっていない(世界中の誰も知らないフロンティア!)ので、それを探究し、明らかにしていく必要があります。また、そのような新しいタイプの物語をどのようにつくることができるのか、そして、どうやったらよいものをつくれるようになるのか、についても、自分たちで考えてつくっていく必要があります。このように、既存の物語創作の考え方や方法を学びつつも、自分たちで「つくり方をつくる」ことを重視します。

このように、本研究会では、作品をつくるプロジェクトを行いますが、そのなかで、「実践を促す物語」のあり方やつくり方を探究することを徹底して行います。ここでは単に作品づくりをするのではない、自分のつくりたいものをつくるというわけではないということが、作品づくりの他の団体や個人の創作とは大きく違うところです(そして、「研究会」として取り組むことの意義です)。

そして、もう一つ、本研究会で重視しているのは、「複数人でのチームで創作をする」ということです。話し合ってアイデアを育て、それぞれの得意を持ち寄ってつくっていき、素晴らしい作品をつくる——ひとりでは到達できないような高みをチームで実現する——ということに取り組みます。特に漫画や絵本、歌、小説などの作品づくりでは、世の中では一人でつくるケースが多いかもしれませんが、そのような表現においても、私たちはチームでつくることに挑戦します。そのためには、どういうかたちでどういうやり方で取り組むのがよいのか、そういうことも考えて試し、実践していきます。

このように、私たちが重視しているのは「創造的コラボレーション」であり、それは「メンバーが互いに高め合いながら成長し、個人には還元できないチームレベルの創発的な勢いに乗りながら、世界を変えるような成果を生み出す」ということです。これまで独りでつくってきたという人も、(個人での作品づくりは、今後も自分でやっていけばいいとして)、本研究会では他の人たちと一緒につくるということを味わい楽しみ、仲間とともにより高いレベルを目指してほしいとと思います。

最高のものを生み出すためには、「効率性」や「楽をする」ということを超えて、多大な努力と揺るぎない本気が必須です。つくるなかで、絶えず「よりよくする」ということを徹底するのはもちろんのこと、一度かたちになったときにも、「ここまでがんばってきたので」、「だいたいできたので、これでよいかな」と思うのではなく、かたちになったものが最高のものになっているかを、冷静に見つめ直します。

その段階でようやく現れた「全体」を見ると、質が高くないということがわかったりします。そうなると、「一度こわす」ということが大切になります。でも、大丈夫。ふりだしに戻るわけではありません。再構築は、最初と同じ時間や労力がかかるわけではないのです。つくった作品を見る・読む・聴く人たちは、その「全体」を受け取るのであって、「がんばってきたプロセス」や「時間的事情」を見てくれるのではありません。その「全体」が素晴らしいものになるように、一度工程を戻り、やり直す。その冷静さと自分への厳しさが創造には不可欠です。

ただ、「一度こわす」と言っても、本当に「一度」かどうかは、場合によります。一度で済む場合もあれば、「全体」ができるたびに何度か必要になる場合もあります。そういうことが計画できないのが、未知なるものをつくる創造の宿命です。井庭研では、そうやって徹底して最高のものをつくるということを大切にしているので、自分一人では難しい徹底した創造体験ができると言えます。

何かを生み出す「創造」というのは、地を這うような地道な営みです。それでも、そのような苦労を経て、最高のものができたときには、とても大きな喜びがあります。そして、「つくる」ということそのものにも、何事にも代え難い、深く豊かな喜びがあります。しかも、チームで取り組めば、大変なことも仲間とともに支え合い、励まし合い、笑い合って乗り越える素晴らしさがあります。創造の過程がよいものであれば、その結果生まれる成果もよいものになります。創造はつらくて楽しいことなので、「つら楽しい」という言い方を、僕らはよくします。いろいろ大変なことがあっても、「楽しい記憶」になるようにプロジェクトや活動をつくっていく——井庭研ではそういうことを大切にし、実際にそうしています。

本研究会に来てほしいのは、この研究会の場で、自ら学び・成長し、仲間とともに取り組み・高め合い、つくることに徹底して向き合い・やる抜く意志のある人です。すでに漫画、アニメ、絵本、小説、歌、映画、オーディオドラマ、演劇などをつくってきた経験をもち、優れた技術を持っている人は歓迎しますが、単にそれを活かす・ここでも行うというだけでなく、この場で、学び、成長し、仲間にも教え、互いに高め合うことが期待されます。また、そのような経験や技術を持っていない人であっても、研究会に入る前や、入ってから、自分で学び、練習し、力を磨いていくということを本当にしていく人に来てほしいと思います。

■井庭研での日々
◯木曜4・5限の「つくりかた研究会」
時間割上、研究会の時間として設定されている木曜4・5限には、全員で集まって、物語創作や実践発想ストーリーズの「つくりかた」について、お互いの試みや発見を発表し合います。また、みんなでつくりかたを学ぶことのできる映像を観たり、指定文献を読んできて、みんなで重要箇所について話し合ったりします(2025年度秋学期は、漫画のコマ割りとネームについてみんなで理解を深めたいと考えています)。また、ゲストを招いてお話を聞いたり、研究会メンバー全員でつくること(Open Research Forum=ORFの準備など)に取り組んだりします。
なお、正規には4・5限ですが、延長することも多く、また、一緒にご飯を食べて交流したりもします。そのため、木曜日は、5限以降も予定を空けておくようにしてください。

◯プロジェクトの集まりと、各人がつくる時間
各プロジェクトは、月曜日や水曜日など決まった時間に、毎週集まって話し合いや共同作業をします。よいものをつくるには、しっかりと時間をかけて、話し合い、洗練させていくことが不可欠です。そのため、チームで集まる「まとまった時間」を取ることが大切です。プロジェクトの時間はメンバーは授業や他の予定を入れず、集まって活動します。この時間以外にも、各人がつくることに取り組みます。

◯毎日のオンライン・コミュニケーション
みんなで集まる時間は、どうしても限られてしまいます。そのため、研究会やプロジェクトに関することや、それに関係する情報共有やコミュニケーションは、井庭研では、slackというコミュニケーションツールを用いて、毎日行っています。こまめにアクセスして、読んだり書いたりして、積極的にオンライン・コミュニケーションにも参加することが求められます。ぜひとも、自分に関わることや学びや気づきをくれたものにはどんどん反応をしていき(卓球やテニスのようにレスポンス・ラリーを続けていく)、日々の非同期コミュニケーションもフル活用して、学び合い、高め合っていきましょう!

◯担当教員の授業
担当教員である井庭崇の授業は、可能な限り早い時期に、すべて履修してもらいます。授業で教えていることは、研究会では前提として扱います。授業を取っていないと研究会に参加できないわけではありませんが(早い時期から研究会に入ってがんばることも大切なので)、研究会に所属しながら、その学期に開講されている授業を並行して履修し、追いついてください。
2025年度秋学期に開講されるのは、「創造システム理論」(金曜1限)と、「Pattern Language (GIGA)」(木曜2限:英語開講)です(「Pattern Language (GIGA)」は、英語ではなく、日本語で受けたい場合には、来年の2026年度春学期の「パターン・ランゲージ」(日本語開講)で受けるので構いません。英語で受講する方がよい・それでもよい人は、この秋学期に受けてください)。


■パターン・ランゲージをフルに活かした創造・実践・学び
井庭研では、これまでの約20年間、「創造」と「実践」と「学び」の研究に取り組んできました。そして、そのなかで、それらの本質を「パターン・ランゲージ」というかたちでまとめ、共有し、活用するということに取り組んできました(興味あある人は、記事「僕ら(井庭研とクリエティブシフト)のパターン・ランゲージ研究の20年を紐解く」および、論文「Applying Pattern Language from Places to Programs and Practices」も参照してください)。

パターン・ランゲージは、創造を含む実践の本質を言語化し共有するためのものであり、よい実践についての学びを支援するものです(参考「創造社会を支えるメディアとしてのパターン・ランゲージ」)。パターン・ランゲージというのは、別の言い方をすれば、「実践を促す言語」です。「実践を促す物語」と似ていることに気づいた人もいるかもしれません。パターン・ランゲージは「実践を促す言語」であり、実践発想ストーリーは「実践を促す物語」なのです。このようなつながりから、パターン・ランゲージを研究していた井庭研が実践発想ストーリーズに取り組むことになりました。

井庭研では、これまでに、いろいろな実践領域でパターン・ランゲージを作成してきました。それらのパターン・ランゲージは、自分たちの日々の活動に役立ちます。実際、このシラバスでカードのかたちで取り上げたものは、創造的コラボレーションのパターン・ランゲージ(コラボレーション・パターン)や、企画のパターン・ランゲージ(プロジェクト・デザイン・パターン)、創造的な学びのパターン・ランゲージ(ラーニング・パターン)です。井庭研では、このように、パターン・ランゲージを活用して、よい実践になるための大切なことを学び、確認しあい、共通言語として用いていきます。

また、井庭研では、物語のつくりかたについて学んだり、自分たちで実践するなかで気づいた大切なことをパターン・ランゲージのかたちにまとめる、ということも行います。よい実践における大切なことをパターンの形式(状況/問題/解決/結果とそれに名前をつける)で記述することは、自分たちの実践をふりかえり、理解を深めるということにつながり、それを記述することで、他のメンバーに共有しやすくなり、学びやすくなります(参考「パターン・ランゲージ作成による実践の振り返り」)。これは、つくりかた研究において、適切かつ魅力的に実践知をまとめる方法となります。このように、つくりかた研究における記述方法としても取り入れます。

この創造の実践における大切なことをパターン・ランゲージとして書くということがどういうことかを、物語創作の文脈で理解しやすい例を紹介しましょう。まず最初のものは、漫画制作における大切な基本についてまとめたパターンを書いた論文「Fundamental Patterns for Crafting Engaging Manga」を見てみてください。コマ割りやキャラクター設定についての大切なことがパターン・ランゲージの形式でまとめられています。また、作曲において、心に響く楽曲の設計についてパターン・ランゲージ形式でまとめた論文「Music Composition Patterns」もあります。また、少し毛色が違いますが、自分たちの実践経験からコツをパターン形式でまとめたものが論文「Creative Uses of Generative AI」で紹介されています。

さらに、文章で実践についての本質を、質感のあるかたちで記述する「パターン・ランゲージ」は、「新しいジャンルの文学」であるとも言われています。また、井庭は、「実践を促す言語」であるパターン・ランゲージを「開かれた物語」としてつくることを提唱・実践し、そのような作品を発表してきました。その意味で、20年間に及ぶ井庭研でのパターン・ランゲージ作成の経験は、「実践を促す物語」(実践発想ストーリーズ)の創作に大いに参考になるとともに、そこでの方法論や思想に通じていることを理解することは、自分たちのやっていることを深く理解することにつながります。そのような理由で、今後も、井庭研では、パターン・ランゲージついても学び、日々、パターン・ランゲージ作成研究をしている井庭研の大学院生たちとも交流や協働を行いたいと思います。

以上のように、井庭研では、パターン・ランゲージにエンパワードされた創造・実践・学びをするという意味で、他の創作集団にはない大きな特徴・強みであると言えます。加えて、井庭は、パターン・ランゲージの分野においても、新しいジャンルを構築し、つくり方をつくってきました。その豊富な経験は、本研究会で取り組む新しい物語のジャンル構築とつくりかた研究において、大きく寄与するでしょう。そういう面でも学んでもらえればと思います。

研究会テーマ

井庭崇研究会A実践発想ストーリーズ創作研究ラボ:実践を促す物語という新しいジャンルの探究とそのつくり方をつくる— 漫画、アニメ、絵本、小説、歌、映画、オーディオドラマ、演劇

研究会・来期の研究プロジェクトテーマ予定

井庭崇研究会A実践発想ストーリーズ創作研究ラボ

能動的学修形式説明

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準備学修(予習・復習等)

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授業の計画

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成績評価方法

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テキスト(教科書)

"Practice-Inspiring Stories: A New Genre of Narrative that Inspires Audiences to Engage in Good Practices" (Takashi Iba, Urara Tajima, Elly Shimamura, Mikoto Odaira, AsianPLoP '24: 11th Proceedings of Asian Conference on Pattern Languages of Programs, People, and Practices)
“Pattern Manga: Attractively Expressing Patterns of a Pattern Language in Manga Style” (Takashi Iba, Hiroaki Tanaka, Sae Adachi, Mizuki Ota, and Urara Tajima, PLoP '23: Proceedings of the 30th Conference on Pattern Languages of Programs, 2023)
“Pattern Song: Auditory Expression for Pattern Languages” (Takashi Iba, Mayu Ueno, and Ayaka Yoshikawa, World Conference on Pursuit of Pattern Languages for Societal Change (PURPLSOC 2017), 2017)
『マンガのマンガ 初心者のためのマンガの描き方ガイド:コマ割りの基礎編』(かとうひろし, 新装版, 銀杏社, 2014)
『まんがでわかるまんがの描き方:まんがのネームは字コンテからつくれ 編』(浅野 龍哉, 砂威 (作画), 大塚 英志 (監修), KADOKAWA, 2024)
『もっと魅せる・面白くする 魂に響く 漫画コマワリ教室』(深谷 陽, 東京ネームタンク, ソーテック社, 2019)
『テクニックでセンスを超える! プロが教えるマンガネーム』(佐藤 ヒロシ, 日本文芸社, 2024)
『マンガの原理』(大場 渉, 森 薫, 入江 亜季, KADOKAWA, 2025)
『書くことについて』(スティーヴン・キング, 小学館, 2013)
クリストファー・アレグザンダー, 『時を超えた建設の道』, 平田翰那 訳, 鹿島出版会, 1993
井庭崇 編著, 鈴木寛, 岩瀬直樹, 今井むつみ, 市川力, 『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』, 慶應義塾大学出版会, 2019
井庭崇 編著, 中埜博, 江渡浩一郎, 中西泰人, 竹中平蔵, 羽生田栄一, 『パターン・ランゲージ: 創造的な未来をつくるための言語』 , 慶應義塾大学出版会, 2013

担当教員から履修者へのコメント

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備考

●ここ(研究会)は、探究・研究の場であり、また学び・成長の場です。単に作品をつくりたいだけの人には向きません。探究・研究や学び・成長のための意欲と努力が不可欠です。そして、それを自分一人だけで行うのではなく、自らするとともに、仲間とも行い、教え合い、高め合うということがとても大切です。そのことをよく理解した上で、エントリーしてほしいと思います。

●また、このような知的・創造的なコミュニティは、自然発生するものではなく、一人ひとりが関わり、つくり、育てていくことが不可欠です。自分たちの活動の場・コミュニティを、自分(たち)事として関わるということを、全員に強く求めます(人任せにして、ぶらさがって利用するだけの人では困ります)。一緒によいコミュニティをつくり、そこで面白いことをやっていきましょう!

●つくりかた研究会では、各自、指定文献を読んできての話し合いをしますが、そのための文献は各自購入してもらうことになります(何冊も読む上、専門書には高額のものも含まれています)。また、つくるために必要なツールやソフトも各自購入・準備してもらう必要があります。そのような学びや活動のために必要な出費があることを、あらかじめ理解・了承して履修してください。